• 2017.05.1608:00
  • 自己分析

【中川淳一郎コラムvol.28】悩み相談)会社に入る前と、入った後で感じた最も大きな「ギャップ」を教えてください

Q)会社に入る前と、入った後で感じた最も大きな「ギャップ」を教えてください。
 
A)ドラマ『半沢直樹』(TBS系)や、栄養ドリンクのCMでは、やたらとアツく、リーダーシップを発揮する、まさに「闘う戦士」のごときサラリーマンが多数登場しますよね。しょっちゅう「正しいことをやれなくて何が仕事ですか!」「儲かる、儲からない以前に困っている人を救うのが、我々のミッションじゃないですか!」などと悪徳上司に啖呵を切ったり、イベント等の本番直前に大問題が発生し、頭を抱えていたら部下が一体感を発揮して「部長! 僕達は部長についていきます!」なんていう展開になり、無事ミッションコンプリート。エンディングでは部下の若い女性と腕を組みながら夕日の中に消えていく、的な展開です。
 
私は学生時代、こうした諍い事や、「仲間との一体感」みたいなものが嫌いでした。しかし、サラリーマンを題材にした作品は、こんな話ばかり。出てくる登場人物は悪党か超優秀な人か、お人好しの親切な人かのどれかです。そして、サラリーマンを描く際によく登場するのが、机の上に書類をドーンと積み上げられ「あぁ、今日は徹夜だ……」的なものですね。
 
会社に入る前、これらが恐ろしくて仕方がなかった。しかし、実際に入ってみると、こんなことまったく発生しないんですよ。学生時代と同様に、ごく普通の人が淡々と目の前のことをこなしている。別に書類ドーンもないし、「そのやり方じゃ古いって言ってるんですよ!」「何コラ、貴様上司にさからうのか!」「私は正しいことを言ってるだけです、立場は関係ありません!」「何を貴様! バーンバーン(怒りのあまり机を叩く音)」といった展開はまずない。
 
職場にいると、派遣社員がチャットツールを使って「ヒマだね。ちょっとお茶しに行かない?」「15時に1階で待ち合わせしようか」などとやったりしている。また社外で打ち合わせをしたら、先輩が「まぁ、終業の17時30分まであと30分だけど、会議が延びたことにしてこのまま飲みに行こうぜ」とか言いながら部署に電話をかけ、「いやぁ、会議、全然終わらないので、オレと中川のホワイトボードに『NR』(No Return=直帰)と書いといて」なんて言い、酒を飲み始めてしまうわけです。
 
会社員になったら途端に優秀で、正義感溢れる人間にならなくてはいけないのかと思っていた私は、入社1ヶ月の段階で「なーんだ、今までのオレでいいんじゃねぇかよ」と思ったわけです。つまり、テストがあれば、そのための勉強(準備)をし、学園祭があれば必要な物資を発注したり、ゼミではその場を時々仕切ったりする。講義には遅刻をしてはいけず、バイトも決められた時刻にきちんと現場にいる――。こういった当たり前のことを23年間ほどやり続けられたわけで、ステージは変わったものの、同じことをやればいい、ということに気付いたのですね。それは同時に「サボることも普通のこと」ということも意味します。
 
元々私が社会人に対して嫌悪感を抱いていたのは「社会人たるもの、完璧な人物であらねばいけない」、という勝手な思い込みです。それはドラマやCMから生み出された“偏見”だったのですね。しかし、実際サラリーマンはスーパーマンでもなければ、超絶優秀頭脳集団でもなく、ごく当たり前の普通のニイチャン、ネエチャン、オッサン、オバサンの集団なんですよ。
 
大学まで同様、人付き合いの基本は同じなのだな、と思ったところで、社会人に対する恐怖心が消えました。そして、あなたの質問に戻りますが、「ギャップ」は、「社会人というものは、思っていたほどたいして崇高な存在でもない」ということに気付いた点にあります。「仕事をする優秀な機械」ではなく、「血の通った人間である」ということが分かったのが最大のギャップです。
 
ですから、あなたもあんまりビビらず、さらには「ギャップ」なんてものも特に持たないよう、過度にサラリーマンを神聖化しないでいただきたいです。『半沢直樹』がオンエアされたTBS日曜21時枠では、2017年春クールは長谷川博己主演の『小さな巨人』という警察を舞台にしたサラリーマンドラマをやっていますが、もし、あんなに啖呵が切られてばかりの職場だったら、もう精神持ちません。あれはあくまでもストーリーとして面白くしているだけなので、いくら監修が入っていて「リアリティがある」とはいいつつも、労働者の実態を描いているとは思わないでOKです。普通の社会人はあそこまで意識が高くありません。
 
むしろ、漫画家・東海林さだお氏作「サラリーマン専科」や「タンマ君」みたいなスーダラサラリーマンの方が現実的だと思います。社会人になることにビビらないでください。
 
 

【筆者プロフィール】

中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
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編集者
 
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
 
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。

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