• 2017.07.2611:30
  • 自己分析

【石渡嶺司コラムvol.15】 エントリーシート改造講座 「オタクの『好きなこと』はESに書いていい?悪い?」

エントリーシート改造講座4回目の今回は「好きなこと」パターンについてです。
サークルやボランティア、趣味、旅行など、そのきっかけや原動力は「好き」が軸となる学生は少なくありません。中には、「好き」を極めた「オタク」、と言われるような学生もいます。
では、その好きなことをESに書くのはいいのか、悪いのか。書くとしたらどうすればいいか、解説していきます。
 
今回の参加者
 
▽久良信三さん(京都産業大学)
※名前は仮名です
 
久良さん:エントリーシートで自分の趣味のことを書いてみたのですが…。
石渡:うん、よくいるよね。
久良さん:しょせん、趣味だからやめた方がいい、というアドバイスと、それこそ好きに書いた方がいい、というアドバイス、両方受けて、それで迷っています。
石渡:なるほど、それでは拝見しましょう。
久良さん:はい、こちらです。志望企業はメーカーの総合職、お題は「学生時代に頑張ったことを踏まえての自己PR」です(制限文字数・400字)。
 
●久良さん・作成:

私の強みは、好きなことを頑張ることです。小さいころから昆虫採集が趣味でした。大学に入ってからは昆虫収集の旅行にはよく行くようになりました。沖縄や屋久島、北海道、志賀高原などそれぞれいい経験ができました。大学では、文系学部ではありますが、他大学受講で昆虫学の講義を受けましたし、学外の昆虫に関する講演は積極的に足を運ぶようにしました。公立博物館でもボランティアをするようになり、視野を広げることができました。ボランティアでは積極的に動くようにしています。昆虫の中でも私はトンボとカブトムシが好きです。同好の士とやり取りすることでコミュニケーション能力が身に付きました。好きを原動力に前へ進もうとすることが私の強みです。この強みをもって、貴社でも働いていきたいと思います。(334字)

 

●石渡解説
昆虫が好き。昆虫オタク。
ということはよくわかりました。
が、それ以外には、ちょっと理解できない点が多数。
では、この久良さんに、もう少し質問をしてみましょう。

 

石渡:久良君は昆虫が好きなんだね。昆虫オタク?
久良さん:オタクって言われるほどではないです。
石渡:大丈夫だよ、オタクがダメと言っているわけではないから。
久良さん:オタクという言葉にちょっと抵抗ありますが、まあ、そうですね。
 

●石渡解説
あえてネガティブなイメージも合わせ持つ「オタク」という言葉をぶつけてみたのは理由があります。
オタクの程度がどうあれ、コミュニケーション能力の高いオタクだと、
「オタクです~」
「ばれちゃいました?そうなんですよ」
 など、強い拒否反応は示しません。
 一方、コミュニケーション能力が低いと、
「いや、オタクではないですよ。××は3回しか見ていないし」
など、拒否反応を示します。
 その××を知っている時点で十分オタクなんだ、白状しろよ、と思うのですが、なかなか認めたがりません。
 このオタクネタに拒否反応を示されるとそこで会話が終了してしまいます。
 その点、久良さんは、最初、拒否反応を示しましたが、その後は認めました。それなりのコミュニケーション能力はある、と言えます。

 
久良さん:やはり、オタクは企業で嫌われるのでしょうか。
石渡:そんなことないよ。趣味はその人を形成する要素の一つだからね。その趣味が大したものであってもそうでなくても、そこを理由に落とす企業はまずないんじゃないかな。
久良さん:そうですか、ちょっと安心しました。
石渡:ただねえ、このESのままだと、かなり苦戦すると思うよ。
久良さん:「趣味、オタクネタはやめた方がいい」とアドバイスしてくれたキャリアカウンセラーの先生も同じことを言っていました。
石渡:このES、読んだだけでは久良君が昆虫好き、ということ以外、よくわからないんだよね。
久良さん:そうですか…。
石渡:それと「好きなことを頑張る」が久良君の強み?
久良さん:はい。
石渡:本当に本当?「好きなことを頑張る」ということは「好きでないことは頑張らない、頑張れない」と言っているも同然なんだけど。
久良さん:あ…。
石渡:さ、もう1回、聞こうか。久良君の強みは「好きなことを頑張る」、本当にこれでいい?
久良さん:実は自己分析、やったのですが、よくわからなくて…。適当に作っちゃいました。
 

●石渡解説
好きなこと、オタクネタをESに書く学生がなぜか書きたがるのが「好きなことを頑張る」です。これ、裏を返せば「好きでないことは頑張らない」となり「頑張れない」学生と誤解されます。すなわち、「好きでない仕事を振ったら仕事にならないダメ社員になる可能性が高い」とすら判断されかねないのです。
 もちろん、人には向き不向きがあります。「どんな仕事も頑張ります」と書けばいい、という問題ではありません。だからと言って、最初から向き不向きを自ら限定しすぎてしまう書き方はきわめて危険です。

 
石渡:自己分析でちょっと迷って、それで「好きなこと」を軸にした、ということかな?
久良さん:はい。自分1人でやっていたら、訳が分からなくなって…。
 

●石渡解説
就活、それも序盤で失敗しやすい学生のパターンが何でも1人でやろうとすることです。
友達と慣れ合え、ということではありません。
同じ学生同士、ひょっとしたら同じ企業を受ける際に椅子を奪い合うライバルになるかもしれません。
そうなったとしても、共同でできる部分はどんどんやっていく方が結果的には得をします。
 自己分析などはその典型で、すべて1人できっちりやろうとすると、「自分の生まれた意味とは」という深い命題にまで入り込んで、迷子の森をさまよってしまうことにすらなります。

 
石渡:昆虫が好き、ということだけど、そのあたりを聞いていこうか。
久良さん:石渡さんも昆虫が好きなんですか?
石渡:いや、全然。鉄道とか飛行機とか旅行全般、それとマンガ・アニメは好きだけど。
久良さん:そうですか…。
 

●石渡解説
オタクが他のジャンルのオタクに理解を示すか、と言えば、面白がる人と途端に興味をなくす人ときれいに分かれます。
私は昆虫マニアだった小説家・北杜夫のファンでもあり、本当は昆虫も好き。なんですが、この場はオタク談話で盛り上がる場ではなく、就活相談なので、ちょっとつれなくしてみました。

 
石渡:他大学受講というのは、これはコンソーシアム(大学間連合)の講義のこと?
久良さん:はい。講義は他大学の学生が中心でした。
石渡:自分で違う環境にわざわざ飛び込んだんだ。
久良さん:最初は同じ大学の空気ではないので、戸惑いました。今は違う大学の友達もできてよかったと思います。
石渡:違う環境、ということでは公立博物館のボランティアもそうだよね。これは、好きなことができた?
久良さん:最初は好きなことができる、好きな昆虫に触れ合えると思って応募しました。実際には違う事ばかりで。
石渡:好きなことはそうそうできなかった?
久良さん:はい。ボランティアって要するに雑用なんです。キャンペーンのハガキの仕分けをやったり、館内清掃の手伝いだったり。学芸員さんもボランティアの面倒はあまり見たくない、という感じで。私と同じ時期にボランティアを始めた学生は10人いました。しかし、私ともう1人以外はみんなやめちゃいました。「これはやりがい搾取だ」「ブラックアルバイトよりひどい」って。
 

●石渡解説
「やりがい搾取」は社会学者の本田由紀が命名。企業風土として、報酬を抑制する代わりに「やりがい」を感じさせます。結果として賃金の抑制、無報酬の長時間労働などが常態化し、そうした企業を指す場合もあります。2016年、テレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でもこのキーワードが登場し、話題となりました。企業だけでなく、大学でもよくありますけどね。大学の幹部が若手教員に「君は将来の学長候補だ」とあおるだけあおって、無理な仕事を押し付けるとか。
石渡個人としては、やりがい搾取と非難される企業があることは否定しません。ただ、それを言い出したら、仕事ってそもそも成り立たないような気もします。ま、それはまた別の機会にでも。

 
石渡:やりがい搾取、と言って、君ともう1人以外はやめたボランティアを君はどうして続けたの?
久良さん:せっかくだから、続けてみようかな、と。雑用ばかりでちょっと腹も立ちましたが、どうせなら、その雑用から次につなげられないかなって。もう1人の続けている学生も、そう考えるタイプでした。それで、2人で次につなげるようにしていきました。
石渡:たとえば?
久良さん:キャンペーンのハガキなら、指示された分類をやったうえで、違う角度の分類をしてみるとか。2人で博物館学の本を読み合うことで展示方法の勉強などもしてみました。最初は、ボランティアを小ばかにしていた学芸員さんも「こいつらは見込みがありそう」とあれこれ教えてくれるようになりました。
石渡:ああ、そういうのをひっくるめて「積極的に動く」ということにつながるわけなんだね。
久良さん:昆虫の講演、というのも、昆虫の話だけでなく、昆虫展示の講演にも参加するようにしました。他の博物館がどういう展示をやっているか、そのうえでボランティアとして参加している博物館の展示を変えるとしたらどうすればいいか、レポートを書いたこともあります。これを学芸員さんに見せたところ、提案の一部は受け入れてもらえました。
石渡:出発点はね、「昆虫が好き」だけど、このボランティア、最初は好きとは無関係な仕事ばっかりだったわけでしょ。現に、他の学生は大半がやめているわけだし。それでも、君は続けた。「次につなげたい」って。そこ、どうしてか、もうちょっと説明してくれる?
久良さん:好きばっかりが人生ではないかな、と思うんです。確かに僕は昆虫オタクですけど、昆虫が人生の全て、というわけではありません。好きなことも人生だけど、最初から好きではなかったにしろ、途中で変わっていく、ということもあるのが人生のはず。昆虫だって脱皮していくことで成長しますし、だったら僕も、雑用も含めて自ら成長していく、それが大事かな、と。自ら成長していくためには、目の前のことをやってみて次につなげることが大事なんじゃないかな、って思います。
石渡:久良君、ちゃんと自分の強み、言えているじゃない。それだよ、それ。
久良さん:え?僕、自己分析、ちゃんとできていないし自己PRもまとまっていないのですが…。
石渡:今、自分で自己PR、ちゃんと言えたじゃない。「自ら成長していくために、目の前のことをやってみる」、それで十分だよ。
 

●石渡解説
自己分析、必ず、他人と一緒にやれ、とまでは言いません。が、できれば、自己分析に充てる時間のうち、半分程度はキャリアカウンセラーなどと一緒にやるようにしてみるといいでしょう。意外と自分1人では見えてこなかった自分の強みが見えてきます。

 
●石渡・改造例:

私は自ら成長するために、目の前の小さなことでも取り組むことが強みです。小さなころから昆虫が好き、ということもあり、昆虫の展示をしている公立博物館のボランティアに参加しました。理由は好きな昆虫に触れ合える、と思ったからです。しかし、ボランティアが始まると、ハガキの仕分け、清掃など雑用ばかりでした。しかも、ボランティア担当の学芸員は積極的に面倒を見てくれるわけでもありませんでした。そのため、私ともう1人以外の学生以外のメンバーは、好きなことができない、という理由で辞めていきました。私は残ったもう1人の学生と一緒に、雑用にも一工夫を入れたり、博物館展示の基礎知識を2人で勉強するなどの工夫をしました。その結果、ボランティア担当の学芸員にも認めてもらえるようになりました。私の好きな昆虫は脱皮を繰り返すことで成長します。私も自ら成長するためには、雑用も含めて自ら成長していく思いを今後も持ち続けていきます。(395字)

 
久良さん:なんか、こういう話になるとは思いませんでした。
石渡:あ、そう。じゃ、やめる?
久良さん:いえいえ、使わせてください。だって、僕が書いたの、あのままなら、単なるオタクアピールですよ。石渡さんにまとめてもらったのは、ちゃんと自己PRができていますし。
石渡:でしょ?最後の最後でちょっと聞くけど、オタクということだけで抵抗をもたれやすいと思う?
久良さん:うーん、自分の好きな話を一方的にするとか、そのあたりですか?
石渡:その通り。就活でも、社会人生活でも同じ。別に何オタクでもいいわけだよ。昆虫でも鉄道でもアニメでも。ただ、趣味は趣味、でちゃんとコミュニケーションが取れるかどうか。
コミュニケーションが取れるなら、オタクでももちろん良いということなんだよ。
久良さん:ありがとうございました!
 

●今回のまとめ
・好きなこと・オタクネタは単なるオタクアピールと勘違いされやすい。
・出発点は「好きなこと」でもいい。その後の経過として何かないか、考える。
・自分1人では自己分析が進まないので、キャリアカウンセラーや友人などと一緒にやってみる時間を作る。
・オタクネタがダメなわけではない。オタクアピールが心底、どうでもいいだけ。
・オタクでも、仕事は仕事でコミュニケーションが取れることをちゃんとアピールする。

 
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【筆者プロフィール】

石渡嶺司(いしわたり れいじ)

 
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。

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