• 2017.01.0508:00
  • 自己分析

【中川淳一郎コラムvol.18】悩み相談)「別に就職しなくてもいいですよね?」

Q.「就活が面倒くさいです。アルバイトでも頑張れば最低限の生活費は稼げそうだし、実家住みだし、別に企業に就職しなくてもいいですよね?」
 
 
いいとは思いますが、年をとると焦りますよ。基本、バイトって「替えが利く」人材を求めているわけで、別にその仕事をやるのは「あなた」である必要はありません。だからバイトの時給は安いし、「最低賃金を1500円に!」と訴えるようなデモまで発生するわけです。
 
卒業してからの10年間、32歳までバイトを続けたとしましょう。いずれも2年ほど続けたバイトだとすると、5種類のバイトを経たことになる。「サブリーダー」みたいなポジションに就いたものもあり、役職的なものは一応与えられた。さぁ、その段階で10年間サラリーマンをし続けてきた大学の同級生と比べて実力・社会的評価はどうなっているか? 直近のバイトは時給940円で初めて960円に上がった。
 
残念ながらすべての面においてあなたの方が低いでしょう。元々の知力は彼らよりもあなたの方が上だったかもしれない。しかし、22歳から32歳という最も伸びしろがあり、さらには40代の働き盛りを前にしたトレーニング期間であり、はばたくための助走期間に下働きからある程度のマネジメントをしつつ、さらには転勤や異動までしてきた正社員の実力というものは相当なものになっています。
 
それこそ、エクセルの使い方や個人情報保護法への知識、上座と下座の違い、接待で選ぶ店のレベルなど、社会人が円滑に仕事とプライベートを送る術を、会社とその周辺の取引先との付き合いによって学習したわけです。32歳、係長として部下をマネジメントするようになり、人心掌握の方法も考えるようになった。さて、さらなる年収アップを求め、外資系に転職するか? それともこのまま会社に残り、出世を目指すか、今の客を連れて独立するか。こうした幅広い選択肢を持つことができるのです。
 
会社員の仕事は、日々課題解決と改善の連続です。一方、バイトの仕事は言われたことをトラブルなく回すことが求められます。「いえいえ、私は改善しています。課題も解決しています、店にかなりの利益をもたらしています」、とおっしゃるかもしれません。しかし、それだったらなおのこと問題がある。理由は、あなたがそこまでの仕事をしているというのに「バイトだから」というだけの理不尽な理由で、給料が安く抑えられているし、受けている評価が不当に低いからなのです。
 
社会では結局、立場が人の評価を作るようなところがあります。立場を得るためには実績を作らなくてはいけない。その実績を獲得するには、日々の労働で成果を出し続けることが必要です。バイトというシステムは「成果」が「実績」に繋がらない立場を生み出しているのですね。せいぜい「〇〇店には優秀なバイトがいるらしい」「へぇ~」となる程度です。
 
ここしばらく、非正規雇用が年々増加した実態がありますが、それは経営者側の「安くてクビを切りやすい労働力を確保したい」という視点が生んだものです。それは労働者としては都合よくこき使われている人生を意味します。そちら側の人生の方があなたは素晴らしいと思っている。そう思うきっかけが「就職は面倒くさい」程度なのであれば、就職活動をすることをお勧めします。
 
33歳、どこかの会社を受けた時、周囲のライバルは「10年間営業やってました!」とか「モーリタニアでタコの買い付けやってました!」みたいな人なんですよ。それに対し「私は5つのバイトを経て、そのうち3つではバイトリーダーを任されるほどになりました」と自信をもって言えるかが重要です。
 
そして、もっと重要なのが、そのキャリアは転職では評価されづらい、ということです。ここまでネガティブなことばかり書きましたが、それでもバイトをしたいのであれば、頑張ってバイト人生を全うするのも一興でしょう。
 
 

【筆者プロフィール】

中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
 
①
 
編集者
 
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
 
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。

CATEGORYカテゴリー