• 2017.07.2111:30
  • 面接/筆記/ES対策

【石渡嶺司コラムvol.14】 エントリーシート改造講座 「『一体となって』ではいったい何がまずいのか」

エントリーシート改造講座3回目の今回は「一体感」パターンの罠です。サークルやゼミ活動、アルバイトなどで学生は多人数と接することになります。その経験から学生は「一体となって」というエピソードを展開したがります。ところが、この一体感ネタ、採用担当者の間では聞き飽きたネタとしてよく登場します。株価にたとえれば、ストップ安。では、この一体感ネタ、どう変えていけばいいのでしょうか。
 
 
今回の参加者
▽芦田美千代さん(大阪経済大学)
※名前は仮名です
 
芦田さん:よろしくお願いします。エントリーシートの添削をお願いします。
石渡:拝見しましょう。
芦田さん:はい、こちらです。志望企業は金融機関の総合職、お題は「学生時代に頑張ったこと」です(制限文字数・400字)。
 
●芦田さん・作成:

私は学生時代、フットサルサークルのマネージャーのリーダーをしていました。所属サークルは部員が100人、マネージャーが20人もいる大所帯でした。部員やマネージャー、人それぞれに意欲の温度差がありました。そのため、サークルの運営は大変でした。そこで、私は1年生のときから、積極的に声をかけました。3年生となり、マネージャーリーダーとなったときは、後輩マネージャーにも仕事を割り振るだけでなく、ちょっとしたことでも声をかけるようにして、相談にも乗るようにしました。その結果、サークル全体の一体感が高まり、チーム力も向上しました。この結果、フットサルサークルのチーム力が向上したこともあり、フットサルサークル大会の関西大会で関西200サークルの中で2位の成績を収めることができました。部員や後輩マネージャーからは「芦田さんがいてくれてよかった」と言われました。このチームで、一体となる経験を御社でも生かしたいと思いました。(400字)

 

●石渡解説
ピタリ400字にまとめたのはお見事です。ただ、文章自体は色々とツッコミどころが満載です。
おそらく、芦田さんは文章を書くのに慣れていないのでしょう。
それと、一体感をネタにしていますが、果たしてどういうことか、ちょっと聞いていきます。

 
石渡:なるほど、チームの一体感をアピールしたい、ということなんだね。
芦田さん:はい。一緒にやってきたのがいい経験だったので。
石渡:芦田さん、文章を書くのは自分で慣れていると思う?それとも、それほどでもないと思う?
芦田さん:正直言いますと、慣れていません。あまり、本や新聞を読まないですし…。
石渡:そうでしょ?文章自体を色々と直していく、それと一体感というネタをどうするか、それがポイントかな。
芦田さん:お願いします。
石渡:まず、芦田さんの文章、全部、過去形で終わっているよね。これは、いつも、こんな感じ?
芦田さん:はい。読みづらいでしょうか?
石渡:うん、かなり読みづらい。芦田さんには申し訳ないけど、小学生の作文を読んでいるような錯覚に陥った。
芦田さん:す、すみません…。
石渡:次の文、前に添削した学生の文だけど、ちょっと読んでくれる?
 
例1)
社会人と合同のサッカーサークルに入っていました。チームに必要な存在となるためにも、練習の準備や後片付けを率先して行うように意識しました。ただ、チームが高齢化してしまい活気がない、と感じました。そこで普段から練習でも反省会でも盛り上げ役に徹するようにもしました。(129字)
例2)
社会人と合同のサッカーサークルに入っています。私は学生で年下ということもあるので、練習の準備や後片付けは率先するようにしました。それから、普段の練習や反省会などでは盛り上げ役に徹するようにしています。(100字)
 
芦田さん:同じ内容なのに、例2の方が読みやすいです。どうしてですか?
石渡:例1は最初に学生が書いてきたのだけれど、全部「~ました」で終わっているでしょ。
芦田さん:はい、日常会話ではまず使わない、というか…。
石渡:社会人も全く同じことを感じるわけで。例2は私が変えたのだけど、「~ました」と「~のです」を混ぜているでしょ。
芦田さん:こちらの方が読みやすいです。
 

●石渡解説
仮に、エントリーシート提出時に、すでにやめているサークル・アルバイトなどでも、全部、「~ました」で通すとどうでしょうか。それだけで、文章の完成度が低くなってしまいます。
文末表現については、文部科学省初等中等教育局国際教育課が制作した作文指導のページでも「文末の表現を多彩にする」(上級・13項目)と、指導しています。
>http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/002/010.htm
 
すでにやめているサークル・アルバイトをネタにするときでも、「~ました(でした)」「~ます(です)」は適度に混ぜるようにしてください。

 
石渡:文章表現そのものについて、もうちょっと続けるね。芦田さんが志望しているのはどこだっけ?
芦田:銀行です。
石渡:銀行だと、大半は「御社」「貴社」ではなく、「御行」「貴行」だから注意してね。
芦田さん:違いますか?
石渡:話し言葉だと、会社なら「御社」、銀行だと「御行」。文書だと「貴社」「貴行」。
 

●石渡解説
信用金庫だと「御庫」「貴庫」。銀行志望の芦田さんに限らず、大半の学生が「御社」「貴社」を混同しています。就職氷河期の時は、混同したESはすぐはねられていましたが、売り手市場の現在はそこまでではありません。とは言え、文章に慣れていない、というマイナスの印象は与えてしまいます。注意しましょう。

 
芦田さん:文章にもいろいろ、ルールがあるのですね。
石渡:これからは意識して新聞や本を読むようにしてね。
芦田さん:はい。
 

●石渡解説
エントリーシートだけでなく、社会人になってからも、報告書など文章を書く機会は学生の想像以上に多いです。
文章力を上げるためには、就活やエントリーシートと直接無関係でも、新聞や本を読むように意識してください。

 
 
石渡:さて、文章そのものはこれくらいで、次はネタそのものについていこうか。サークルは関西のフットサル大会で2位とあるけど強いんだね。
芦田さん:はい、前から強豪として有名なんです。
石渡:強豪だったのは芦田さんが入ってから?それとも、入る前から?
芦田さん:私が大学生になる前から強豪でした。
石渡:芦田さんが最初に書いた内容だと、芦田さんがマネージャーとして支えたから強くなった、とあるけど、これは、少し盛った?
芦田さん:はい、少し盛りました。私が変えた、という内容の方がいいかな、と思いまして。
 

●石渡解説
盛るかどうかは学生次第です。
ただ、盛ったエントリーシートは、書類選考を通過した、としても、面接などの機会でチェックを受けます。ネットがこれだけ発達した現在では、フットサルでもマイナー競技でも、サークル名や大会などを検索していけば、学生の書いた内容が嘘かどうか、すぐわかります。あまりにも、盛っている、と判断されると書類選考以降の選考で通過しなくなります。基本的には正直に書いた方がいいでしょう。

 
石渡:こまめに声をかけた、というのは本当?
芦田さん:そこは本当です。かなり意識して、それで一体感ができたので、書いておきたいと思いました。
石渡:なるほどね。確かに、社会に出れば、私のようなフリーランスでも、企業でも公務員でも、チームで仕事をすることになる。一体感、というキーワードは確かに重要かな。
芦田さん:そうですよね!
石渡:ただねえ…。この一体感ネタ、サークルやアルバイトをやっている学生、結構、書くんだよね。採用担当者からすれば、このネタだと判別不能となるくらいに多くて。
芦田さん:えー、どうすればいいでしょうか?
 

●石渡解説
一体感ネタ、あまりにも多すぎます。
と言って、書いたから落ちる、というわけではありません。このネタで説得力あるエピソードを書けるならいいでしょう。
そうでなければ、別のネタに変えた方が無難です。

 
石渡:一体感を築いた、というのであれば、具体的なエピソードがある?
芦田さん:やはり信頼関係を構築するために声をかけて行きました。
石渡:信頼関係を構築するためにどうしたの?
芦田さん:丁寧にアプローチをしていきました。
石渡:丁寧にアプローチをするために、どうしたの?
芦田さん:あのー、これ、圧迫面接ですか?
石渡:圧迫面接なんて失礼な。「信頼関係を構築」「丁寧にアプローチ」って、具体的な情報が出ていないからさ。まるで政治家の演説を聞いているみたい。
芦田さん:小学生から政治家ですか。やった、出世した。
石渡:喜んでいるところ、申し訳ないけど、褒めていないからね。
 

●石渡解説
エントリーシート改造講座1回目に出した「普通」と同じです。「信頼関係を構築」「丁寧にアプローチ」と言われても具体的な情報はゼロ。「週1回のミーティングを2回に増やしました」など具体的な話を出してはじめてエピソードとして成立します。

 
芦田さん:そういう事であれば、スマホで確認できる連絡掲示板を作るようにしました。
石渡:どういうこと?
芦田さん:私が3年生になるまでは、先輩が後輩に指示を出すとき、バラバラで。先輩によって言う事が違うので、後輩からすればどちらに従えばいいのか、わからない、ということがよくありました。そこで、部員・マネージャーとも、指示を出したら、連絡掲示板にどんな指示を出したのか、書くようにしました。「ボールをしまう場所を変えました」とか「走り込みが足りないので、ランニングを2キロ、伸ばすように指示しました」とか。指示を出す上級生は連絡掲示板を見れば、どんな指示が出たのか、わかりますし、それ違いを防ぐことができます。
石渡:それ、芦田さんのアイデア?
芦田さん:はい。
石渡:いいじゃない、部員からも好評だったでしょ?
芦田さん:そうですね。追加の指示を出すにしても、前の指示がどんなものだったかを踏まえるので説得力がある、と後輩も喜んでくれました。
石渡:ほかに大変だったことはない?
芦田さん:大変だったことと言えば、社会人との接点です。
石渡:社会人?
芦田さん:社会人チームと練習試合をするなど、接点が多いのですが、学生同士のノリでは許されない部分もあります。マナーなど厳しく指導してくれる方もいました。
石渡:怒られたことがある?
芦田さん:はい。でも、それでマナーなどが身について、今では感謝しています。社会人チームも出場するフットサル大会では、いつも「学生チームにしては、マナーがいいね」とよく言われます。
 

●石渡解説
なぜか、学生の皆さんは社会人との接点をネタにしたがりません。
銀行でも企業でも入社すれば、最初は仕事を一緒にするのは年上の社会人。お客でも上司・先輩でも同じのはず。ということは、社会人との接点をネタにするのはかなり有効のはず。それが一体感ネタと違い、全く見向きもされていないのが現状です。

 
石渡:芦田さんの話を聞いてこんな感じにしてみました。
 
石渡・改造例:

私はフットサルサークルでマネージャーをしていました。規模の大きなサークルで、先輩から後輩への指示がことも珍しくありません。そこで、私が3年生になったとき、上級生だけの連絡掲示板を作りました。後輩に指示を出すときは、一言でいいのでどんな指示を出したか、書くようにしたのです。この連絡掲示板設置後は指示が錯綜することは激減しました。フットサルサークルでは社会人チームと練習試合をするなど、社会人と接する機会も多くあります。社会人チームの方からは試合後など様々な機会を通して、マナーから仕事観まで多くのことを教えてもらいました。当初は怒られることもありましたが、それもいい機会だったと思います。今では、初めて対戦した社会人チームの方から「学生チームにしてはマナーがしっかりしている」と言われるまでになりました。(352字)

 
芦田さん:一体感の話、なくなっちゃいましたね。
石渡:どうしても書きたいなら、まだ文字数に余裕があるから入れてもいいけど。ただ、結構、聞き飽きたネタでもあるから、書かなくてもいいかな。それに、連絡掲示板ネタで一体感が強くなった、とわかる人が多いと思うよ。
芦田さん:ありがとうございました!
 

●今回のまとめ
・一体感ネタは採用担当者の間では聞き飽きている。
・どうしても一体感ネタで行きたいなら具体的なエピソードを入れる。
・「信頼関係を構築」など抽象表現は具体論ではない。
・社会人との接点ネタは他の学生が使わない割に強力(2017年現在では)。

 
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【筆者プロフィール】

石渡嶺司(いしわたり れいじ)

 
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。

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