• 2017.07.1111:30
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【石渡嶺司コラムvol.13】 エントリーシート改造講座「『盛る』『失敗→成功』パターンは勝利の方程式ではない!」

エントリーシート改造講座2回目の今回は「失敗→成功」パターンの罠です。
エントリーシートのマニュアル本を読むと、よくこんな話が出ています。
「学生時代に何か失敗したことはありませんか?その失敗や課題をどのように克服したのか、書いてみてください」
まあ、わかりやすい流れではあります。
ただ、それが必勝パターンか、と言えば話は別。
さらによく言われるのが「盛る」。つまり、多少はうそを書く、というものです。この両方が合わさるとどうなるでしょうか。
 
今回の参加者
▽田沢美代子さん(学習院大学)
※名前は仮名です
 
田沢さん:エントリーシートでよく「失敗を成功に」「課題解決力を示せ」と言うじゃないですか。
石渡:そういうマニュアル本は多いよね。カウンセラーの人もそういう話の人が多いかな。
田沢さん:私、そんなに成功体験と言えるものがなくて。
石渡:なるほど。だったら、どうまとめたのか、見せてくれる?
田沢さん:はい、これです…。志望企業は小売チェーンの販売職、お題は「学生時代に頑張ったこと」です(制限文字数・350字)。
 
 
●田沢さん・作成:

私はピザレストランのアルバイトを頑張ってきました。ランチでは食べ放題制としているのですが、繁忙期には行列ができてしまいます。お客様をお待たせすることになり、お叱りを受けることも多々ありました。そこで私は店長に行列の改善策を提案しました。具体的にはピザができてからすぐどんなピザができたかお客様にご案内する、行列ができた際はお客様に切り分けていただくのではなく、店員側が切り分けるようにする、という2点です。この改善策を実施したところ、お客様の行列が短くなり、ご満足いただけるようになりました。常連のお客様からも「利用しやすくなった」とおほめいただきました。このように私は常に課題を把握し、改善する能力を持っております。この課題改善力を貴社でも生かしたいと思います。

 

●石渡解説
田沢さん、この時点では何も話していませんが、相当「盛って」います。このピザレストランのチェーン、私もたまに行きます。私は現在42歳なのですが、確か30年以上も前から「ピザができたら案内」「行列ができれば店員が切り分ける」というのはやっていました。それを田沢さんが提案したというのはまずあり得ません。お灸をすえる、という意味でもちょっといじめてみましょうか。

 
石渡:なるほど、課題提案力にすぐれているんだね、田沢さんは。
田沢さん:いえ、私なんかはそんな大したことは。
石渡:いやいや、大したことあるでしょう。30年以上前からやっている行列解消策を田沢さんが提案した、と書いてあるのだから大したものでしょ。
田沢さん:あの、えと。
石渡:田沢さん、あなたが生まれる前からやっている話をわざわざ書くということは、よほど盛ったか、それとも、タイムマシーンでも開発してさかのぼって提案していったとか。
田沢さん:わ、私は、あの、その。
石渡:タイムマシーンを開発してもあれだよね、お金だって未流通のもの持ち込んだらアウトだし、服とか流行とか合わせないとだめだよね。そういうの、どうしたのかなあ?
田沢さん:…
 

●石渡解説
半泣きになってしまいました。「どうしたのかなあ?」など、どこぞの国会議員の「あるのかな~?」と五十歩百歩と言われても仕方ないところ。いじめるのが目的ではないので、助け舟を出すとしましょうか。

 
石渡:ワンチャン上げようか。この書いた内容は本当?ウソ?
田沢さん:すみません、盛ってました!
 

●石渡解説
自白させることを警察用語で「落とす」と言います。私は今なら就活関連なら大体の学生を落とす自信があります。まあ、就活関連の事件などそうそうないとは思いますが。

 
石渡:そうでしょうねえ。だって俺が子どものころにすでにやっていた話、書いてあるんだもの。
田沢さん:もう本当に何を書いていいかわからなくて。
石渡:まあまあ。みんなそう言うけど、ちゃんと書けるから大丈夫。
課題解決力でまとめようとするのが、田沢さんの場合、無理あった、というだけで。
田沢さん:そうなんですか?みんな、そうまとめているものと思っていました。就活マニュアル本にも書いてありましたし。あと、短所を克服した、とか。
石渡:なるほど、短所の克服、課題解決力の提示と言ったものは確かにドラマチックだよね。
田沢さん:ええ、見せ場があって良さそうと思いました。
 

●石渡解説
短所の克服、課題解決力の提示と言った書き方は、本当にあるのであれば、有効な書き方です。
しかし、大半の学生はそこまでの経験をしているわけでなく、結果として「盛る」ことになります。それだと、他の学生と大差ありません。

 
田沢さん:見せ場がなくても大丈夫、ということですか?
石渡:プロの書く文章なら見せ場は必要かもね。しかし、就活生のエントリーシートでそこまで期待はしないよ、企業側は。企業側が学生に期待するのは、あくまでも見込み、可能性。それがありそうかどうかを見るためにエントリーシートを書いてもらうわけで。
田沢さん:よく即戦力採用と言われますけど、違うのですか?
 

●石渡解説
ここで「見込み採用」「即戦力」というキーワードが出てきました。
見込み採用とは、日本の大卒採用の大半がこれです。頑張ってくれそう、会社を大きくしてくれそう、一緒に働けそう…という見込みがある学生を採用します
見込み採用をする企業は入社後に時間をかけて研修をします。研修で時間がかかることもあり、専門的なスキルのない学生でもきちんと働けます。一方、すぐ専門分野・部署で働きたい学生からすれば、イラっとする採用手法でもあります。
即戦力採用は、中小・ベンチャー企業の一部で実施。大企業だと、研究職・デザイン職など専門部署・分野で実施されることが多いです。
これは、頑張ってくれそう、などの見込みに加えて、専門知識・スキルが問われます。

 
石渡:具体例を挙げようか。田沢さん、趣味は?
田沢さん:漫画は好きです。
石渡:漫画ね。それだと、Gペンで背景を描ける?トーン処理やフォトショップでのカラー原稿作成はできる?
田沢さん:全部、無理です…。
石渡:漫画を描くのが好きでないと、そこまでできないよね。もし、漫画家のアシスタント採用を目指すなら、最低でも背景を描けるくらいの技量がないと無理。これが即戦力採用。一方、漫画雑誌の編集者は、さっき挙げたスキルは持っていない人ばかり。採用は編集者として頑張ってくれるかどうか、つまり、見込み採用。これが違いかな。
 

●石渡解説
アシスタント事情について『あしめし』(1~3巻/葛西りいち、小学館)。編集者の採用事情・働き方については『重版出来』(9巻〈連載継続中〉/松田奈緒子、小学館)が名作。出版社に落ちて漫画雑誌の編集プロダクションに受かった話は『げんしけん』(木尾士目、講談社)7巻に掲載。

 
石渡:課題解決力の提示と言った書き方は、コンサルティングファームやIT企業だと受けるところも。ただ、それもしっかりしたエピソードがある、という前提かな。なければないなりに、別の書き方をした方がいいと思うよ。
田沢さん:短所を克服した、というネタの方がいいですか?
石渡:それはもっと危険。田沢さんの弱みは?
田沢さん:視野が狭いことです。実はピザレストラン以外にも試食販売とかイベント会場でのビール販売など、様々なアルバイトをしてきました。それも、視野の狭さを変えたいと思ったからです。
石渡:それはいいね。ただ、「短所の克服」ということで、エントリーシートや面接で「視野が狭い」を繰り返したらどうだろう?「視野が狭い」しか印象に残らないはずだよ。それよりは「視野を広げようと思った」と出す方がよっぽど好印象になるはず。
 

●石渡解説
自虐ネタを含めネガティブな話から始めると、結果的には悪印象しか残りません。これは就活だけでなく、日常会話や恋愛、大きなところだと政治・選挙でも同じです。

 
石渡:さっき、複数のアルバイト経験あり、と話してくれたけど、そこ、もう少し詳しく教えて。視野を広げる以外の目的は何?
田沢さん:私の学部、結構、勉強が大変なんです。かといって、学費や定期券代以外は私の負担なのでアルバイトをする必要がありました。それと、海外旅行を年1回行く目標を立てて、それを達成したい、というのもありました。そこで、時間を有効活用できるアルバイトは、どうしても短期や単発のものが多くなったのです。
石渡:つまり、勉強を第一に考えて、そのうえで、両立できるアルバイトを探していったら短期・単発のアルバイトが多くなった、ということ?
田沢さん:はい。
石渡:それ、書けばいんじゃないの?「責任感と時間管理」というところで。
田沢さん:え?だって、課題解決力とは別の話ですよ?
石渡:別でも大丈夫。学生でも社会人でもいろいろな要素がある訳でさ。ある人は課題解決力かもしれないし、別の人は責任感、別の人は粘り強さがセールスポイントかもしれない。どこを使うのが一番いいかは、人によって変わってくるよ。
 

●石渡解説
アピールポイントが人によって分かれる、というのは就活だけでなく恋愛でも同じです。
ところがなぜか就活では、「課題解決力」がマニュアルになると、「課題解決力」が大流行。「粘り強さ」が回答例に出ると、それを真似する学生が続出します。
大学受験一般入試であれば答えははっきりしていますが、就活や恋愛では答えがはっきりしていません。

 
石渡:課題解決力で大嘘の話を書くより、田沢さんの話をちゃんと書いた方がいいよ。
田沢さん:言われてみればそんな気がしてきました。
石渡:でしょ?というわけで、こんな感じにしてみました。
 
石渡・改造例:

私は3年間でアルバイトを5社・10職種で働きました。いずれも接客・販売業が中心です。いずれも短期・単発のアルバイトでした。視野を広げるため、それから、大学の勉強をおろそかにしないためです。私が所属する学科は勉強が大変であり、大学1・2年生の時は定期的なアルバイトができませんでした。アルバイトは視野を広げ、販売経験を積むだけではありません。年1回の海外旅行に行くための費用を得るためにも必要だったのです。そこで大学の勉強とアルバイトの両立を図るために時間の管理にこだわることにしました。短い時間でも勉強をするときは集中する、休む時は休むなど、メリハリをつけるようにしました。この習慣は今も続いています。大学の勉強とアルバイトの両立は大変でしたが、大学の方は無遅刻無欠席を通しました。アルバイトは、目標金額に到達し、海外旅行に行くことができました。(372字)

 
田沢さん:別人みたいです。
石渡:私のES添削受ける学生、みんなそう言うけどさ、田沢さん、あなたの話をまとめただけですよ。
田沢さん:販売職なので「お客様の心がわかった」とか、書いた方が良くないですか?
石渡:接客系のアルバイトやった人、みんな、「お客様の心」書きたがるよね。「お客様の笑顔」とか。書いたら落ちる、とまでは言わないけど、当たり前の話を書かれてもね。
田沢さん:確かに。
石渡:それと、田沢さんの志望する企業って、販売職は高卒と扱いは同じ?
田沢さん:いえ、説明会に行くと、「同じ販売職でも大卒はいずれ、マネジメントもしてもらうので高卒とは違う」と言われました。
石渡:そうなると、販売のスキルだけではダメ。つまり、マネジメントも含めての見込みがあるかどうかを見るわけ。そのあたりを考えると、なおさら「お客様の心、笑顔」は不要でしょ。
田沢さん:ありがとうございました!
 

●今回のまとめ
・課題解決力のパターンは万能ではない。
・嘘をついても、どこかでバレる。
・短所の克服ネタはかなりしんどい。
・ネガティブな話より、ポジティブな話を。
・「お客様の笑顔」ネタは、接客系アルバイトの学生がみんな書くので避けた方が無難。

 

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「世界一・日本一・関西一企業が大集結イベント」(仮称)実施予定
 

【筆者プロフィール】

石渡嶺司(いしわたり れいじ)

 
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。

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