• 2017.07.0411:30
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【石渡嶺司コラムvol.12/エントリーシート改造講座】Q.いわゆる「普通」のアルバイト、どのようにESでアピールしたらよいですか?そもそもアピールできますか?

今回からエントリーシート改造講座を開始します。
エントリーシートや履歴書は大手企業のインターンシップ、あるいは、本採用での選考書類として必ずついて回ります。
志望動機や自己PR、「学生時代に力を入れたこと」(略してガクチカ)など、何を書いていいかわからない、とする学生は例年、多数います。
そこで、変わったアルバイトだと有利、いや、体育会系なら連戦連勝、多少でも盛ればいい、などの噂がこれも例年、横行します。
長年、就活を取材、かつ、学生のエントリーシートを添削してきた経験から、学生の悩みを一気に解決していきましょう。
1回目の今回は「ありきたりなアルバイト」。
 
今回の参加者
▽大原一郎さん(関西大学)
※名前は仮名です
 
大原さん:インターンシップでエントリーシートを提出しなければならないのですが、本当に何を書いていいか、わからなくて。
石渡:そりゃあ、君の話を書くしかないんじゃない?
大原さん:でも、僕、普通のアルバイトしかしていなくて。書くネタがないのですが、どうすればいいでしょうか。
石渡:普通のアルバイト、書くネタがない。なるほどね。今の時点で書いてみたもの、あったら見せてくれる?
大原さん:はい、これなんですがうまく書けていなくて。お題は「学生時代に頑張ったこと」です。
 

大原さん・作成:

私はコンビニのアルバイトを頑張ってきました。コンビニのアルバイトの業務内容は商品の品出し、発注作業、レジでの接客、清掃、POP作成などです。アルバイトを始めたきっかけは内向的な性格を変えようと思ったからです。当初は接客など慣れていませんでしたが、少しずつオーナーや本部指導アドバイザー、先輩アルバイトなどの信頼を得て仕事にも慣れてきました。今はアルバイトを楽しくやっています。このアルバイトで得たものはお客様を大切にする心です。この思いを貴社でも生かしたいと思いインターンシップに応募しました。(245字)

 

大原さん:どうでしょうか?あんまり言いたいことが伝えられていないような…。
 

●石渡解説
どうでしょうか、と言われても、面白くもなんともありません。採用担当者ならほぼ問答無用で落とす典型です。
が、それをそのまま伝えても泣き出すだけなので、もう少し様子を見ます。

 

大原さん:やっぱり、変わったアルバイトの方がいいのでしょうか。それか、アルバイトの販売コンテストで優勝した、くらいの話を書くとか。
石渡:それは本当の話?
大原さん:いえ、そんなことは。
石渡:いわゆる「盛る」ってやつだね。
大原さん:はい。そうした方がいいような気がして。大学のゼミの先生にも相談したのですが、「アルバイトだのサークルだのをエントリーシートに書いたところで、採用担当者はうんざりしている。ありきたりな話を書いてもダメ」と言われました。
石渡:確かに学生がガクチカネタで書くとしたらアルバイトかサークル、ゼミくらいかな。アルバイトだと、就業数を考えればどう考えても君と同じコンビニか、ファーストフードチェーン、居酒屋が中心になるし。
大原さん:ありきたり、と言われるのはわかるのですが、それだと本当に書くネタがなくて。
石渡:ああ、それで400字以内なのに245字しか書けないんだ。
学生:はい…。
 

●石渡解説

400字以内のところ、245字だから落ちる、ということはありません。ただ、せっかく自分をアピールする場なのですから、制限ぎりぎりか、もう少しは書きたいところです。目安は制限文字数の8割くらい。400字なら320字以上は頑張って書いてみてください。

 
石渡:逆にいくつか質問させて。コンビニとしか書いていないけど、どこのチェーンでどこの店?
学生:え?いや、普通のコンビニですよ。普通の店だし。
石渡:うん、普通じゃなくてさ、どこのチェーンでどこの店?それとも秘密にしておきたい?
学生:いや、そこまでではないです。▲チェーンの××駅前店です。
石渡:××駅だと■電鉄の郊外ターミナル駅だよね。結構、大きい駅でしょ。そこの▲チェーンだと、お客さんも多いんじゃないの?
学生:はい、県内では月商がベスト10に入るほどです。
石渡:だったら、ほかの店よりも忙しいでしょ?
学生:そうですね。他店から販売応援に入るアルバイト学生がいますが「こんな忙しい店でよく働けるね」と言われます。僕も別の住宅街の店に販売応援に行きましたが、仕事がなくて、暇でした。
 

●石渡解説
最初は「普通」でまとめていて、再度聞くと、エントリーシートには出ていない情報「勤務先は県内で月商ベスト10に入るほどの優良店」「他店よりも忙しい」が聞き取り調査で明らかになりました。
これがエントリーシートをうまく書けない学生の特徴、「普通」アピールです。
 
飲食チェーンなら、どこか聞いても、
「いや、普通の飲食です」
アパレルなら、
「いや、普通のアパレルです」
「普通の洋服屋です」
全部、「普通」でまとめられるわけですが、これは実にもったいない。ついでに言えば、少しイラッとします。この学生にも同じ思いをしてもらうために、少し意地悪をするとしましょうか。

 
石渡:エントリーシート添削に入る前に、私のことで気になったところ、質問してもらえるかな。
大原さん:えーと、じゃあ、石渡さんの仕事、ライターってどんな仕事ですか?
石渡:あ、普通に記事を書いたり、本を書いたりするだけ。
大原さん:え、ええと、じゃあ、仕事って大変ですか?
石渡:うん、まあ、普通かな。
大原さん:…。仕事を進めるうえで意識することは何ですか?
石渡:まあ、ほかの記者やライターと同じだよ、そこは普通かな。
大原さん:え、えーと、えーと…。
 

●石渡解説
大原さんと同じく、聞かれたことに対して、全部「普通」で返しました。読者の皆さんはどうお感じになったでしょうか。

 
石渡:ここまでにしておこうか。私の受け答え、どう思った?正直に言ってくれていいよ。
大原さん:質問しろと振っておいて、全部、「普通」で返してきたのでコミュニケーションが取れないな、と思いました。
石渡:「コミュニケーションが取れない」、その通り。これは、私のことじゃない、大原さんや「エントリーシートで書くネタがない」と嘆く多くの学生に言えることだよ。
大原さん:えっ?
石渡:どのチェーンのどの店で働いているか聞いたら、最初、君は「普通」で済ませた。ところがよくよく聞いてみると「県内月商ベスト10」「忙しい」という情報があるわけでしょ。それをエントリーシートに書かないで「普通」とまとめているあたり、コミュニケーションを取る気がないとしか思えないけどね。
大原さん:あ…。
石渡:しかも、エントリーシートに君が書いた内容も、「普通」で済ます回答とほぼ同じだよ。たとえばね、コンビニの業務内容、長々と書いているけど、これ、当てはまらないコンビニバイトって存在するの?
大原さん:まずいないです…。
石渡:そうだよね。レジや発注、清掃などをするのがコンビニバイト、というのは日本人の大半が想像つくはず。それ、文字数制限がある中でわざわざ書く話ではないよ。「お客様を大切にする心」も同じ。コンビニチェーンで客を騙そうとするところってあるの?
大原さん:たぶん、ないはずです。
石渡:そうでしょ、すると、これもわざわざ書く話ではないね。すると、君が書いた内容は全部「普通ですよ」以外の何者でもない。本来なら自分をアピールしなければならないエントリーシートで「普通ですよ」一辺倒。矛盾していて、読みどころが何もない、ということになってしまうね。
君が書いた文は、文章力が低いとかネタが弱いとか、そこじゃないよ。わざわざ書かなくてもわかる話を延々と書いているから、つまらない、ありきたり、と言われるわけさ。
学生:……。
 

●石渡解説
ここで出た「書かなくてもわかる話」、この大原さんだけではありません。アルバイトの業務内容などはよほど変わったアルバイトでない限り、長々書く学生が大半です。が、業務内容はあくまでも舞台の背景です。主役は学生なのですから主役の話を書かないと。

 
大原さん:えー、でも何を書けばいいのか、わからないです…。
石渡:いっぱいありそうだけどね。君のことをちょっと聞いていこうか。発注作業や商品のPOP作成、これは最初から任された?
大原さん:いえ、発注作業は新人には任されません。店のことをわかっていないし、売り上げを左右する作業ですから責任があります。僕は1年すぎたあたりから任されるようになりました。
石渡:発注量はオーナーや店長が決めるの?
大原さん:そういう場合もあります。オーナーや店長が「この週は▽という行事があるから」と言うイベント情報を持ってきて変えることもありますが、僕のようなアルバイトの意見・情報が左右することもあります。
石渡:たとえば?
大原さん:××駅近くの高校生もよく寄るのですが、彼らの会話を拾っていって発注量を変えています。修学旅行時期を教えてもらって、その時期は発注量を減らしてロスを抑えたこともありました。逆に高校の運動会や進学説明会に合わせて発注量を増やし、売り上げを伸ばしたこともあります。
石渡:それはすごいね。発注作業をしていると時給も違うの?
大原さん:はい、少し上がります。さらに僕はオーナーから「君はちゃんとお客さんとも会話して情報を拾ってくる。ロスを抑えて売り上げを伸ばしてくれるから、もう少し増やしておくね。頼りにしているよ」と言われました。実はPOP作成も評判いいんですよ。
石渡:ほう、たとえば。
大原さん:高校生がテスト時期のときは、ラムネやチョコなどを前に出して「テスト勉強の気分転換に」とPOPを作ります。話題となっているCMや時事ネタに合わせて作ることもあります。でも、特に役職とかついているわけではないし、大した話ではないですよね。
石渡:あのさあ、君、全然、「普通」じゃないよ。いい意味で。
大原さん:えっ?
 

●石渡解説
話を聞いていくと、「発注作業を任されて売り上げを伸ばした」「POPは客層や時期・話題に合わせて作成している」という絶好のネタが出てきました。
実はこれ、大原さんに限らず、就活生の大半が同じです。わざわざ書かなくてもわかる話、業務内容などを延々と書く。それでいて、学生個人の話は書かない。
コンビニなど、ありきたりなアルバイトのネタはありきたりだからエントリーシートでつまらない、というわけではありません。ありきたりなパターン、それも学生個人の話がないパターンに陥っているからつまらないのです。

 
石渡:発注作業とか、POP作成とか、いい話じゃない。なんで、それを書かないの?
大原さん:いやー、みんなやっていることかと思って。
石渡:気の利いたアルバイト学生ならそうかもね。ただ、アルバイトの業務内容を延々と書くのと、発注作業などを書くのと、どちらが君を表すだろうか。
大原さん:発注作業の方です。
石渡:でしょ?というわけで、こんな感じにしてみました。
 
石渡・改造例:

私はコンビニのアルバイトを3年間、頑張ってきました。私の勤務先は▲チェーンの××駅前店で、県内では月商ベスト10に入る優良店です。1年ほどしてから発注作業やPOP作成を任されるようになったのですが、そこでこだわったのがお客様のニーズです。お客様から高校の修学旅行や運動会、あるいは地域行事の時期を教えていただき、発注量を増減。ロスを防ぎ、売り上げを伸ばすことができました。POP作成も、単に売りたい商品をアピールするだけでなく、お客様とPOP越しに対話することを考えながら作成しました。たとえば、テスト時期だと「テスト勉強のおともにどうぞ。あの棋士も食べている!」など、新聞や雑誌で知った情報と合わせて作るようにしました。オーナーからは「君はちゃんとお客さんとも会話して情報を拾ってくる。ロスを抑えて売り上げを伸ばしてくれるから、これからも頼りにしておるね」と言ってもらいました。(383字)

 
石渡:どう?
大原さん:えー、別人みたいです。
石渡:別人も何もないでしょう。大原さん、君の話ですよ。盛っているわけでも何でもない。君の話を5分聞いてそれをまとめただけだよ。
大原さん:あの、最後ですが、ちょっと文章が唐突に終わっているような。
石渡:ああ、君が書いてきたのだと、「このアルバイトで得たものはお客様を大切にする心です。この思いを貴社でも生かしたいと思いインターンシップに応募しました」というあたりね。
大原さん:はい、最後のオチというか、まとめというか。
石渡:あ、いらない。
大原さん:いらないですか!
石渡:君が言うのは、あれでしょ。文章の構成方法としておかしくないか、ということでしょ?
大原さん:はい。起承転結とか。
石渡:確かに私が本や記事を書くときは、文章の構成方法はこだわるところ。君が大学のレポートなどを書くときも、そこ、気にするでしょ。
大原さん:はい。
石渡:エントリーシートだと、多少、無視してもいいんだよ。
 

●石渡解説
就活マニュアル本やキャリアカウンセラーの指導があるのか、「学生時代に頑張ったこと」の項目でも自己PR的な内容をオチに使う学生が圧倒的に多いです。
お題が「学生時代に頑張ったことを踏まえて自己PRを書いてください」なら、大原さんと同じく、自己PR的な内容をオチにつかうのはいいでしょう。が、お題が「学生時代に頑張ったことを書いてください」なら、あってもなくてもどちらでも可。
そもそもエントリーシートは1項目あたり300字か400字、少ないと200字ということもあります。履歴書などは150字程度、ということも。それだけ少ない文字数で文章の構成にこだわりすぎて学生個人の話をカットするのは本末転倒というものです。

 
大原:ずっと何を書けばいいかわからなかったのですが、これで方向性が見えてきました。最後に、自己PRや志望動機も含めて、自分の書くべきネタ、迷ったらどうすればいいでしょうか。
石渡:他人に聞いてもらうのが一番かな。大学のキャリアセンター職員、友達、あるいは親でもいい。このJOBRASSセミナーにいるカウンセラーや採用担当者などでもいい。君の話を5分、10分聞いてくれる人を捕まえて話してみると、自分では気づかない点などが見えてくるよ。
大原:試してみます。ありがとうございました!
 

●今回のまとめ
・ありきたりなネタがダメではない。ありきたりなパターンがダメなだけ。
・「普通」で思考停止しない。学生個人の話を書くようにする。
・自分の書くネタがわからなければ、キャリアカウンセラーなど社会人か、同級生に自分の話を5分、10分聞いてもらう。

 
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9月上旬~中旬予定【アイデム西日本(大阪・本町)】
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【筆者プロフィール】

石渡嶺司(いしわたり れいじ)

 
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。
 

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