• 2016.04.1411:30
  • 就活入門

延べ3,000人以上に指導したキャリアコンサルタントが業界研究・企業研究のやり方を伝授!

今回は業界研究と企業研究のやり方についてです。これらは、似ているようで全く違うもの……。
まずは、毎年200名以上の大学生を大手企業・人気ベンチャー企業に複数内定させているキャリアコンサルタント井上真里さんから、業界研究のやり方を解説していただきます。

 

 業界は社会の役割分担

自分のことがわかっていくのが面白い! と自己分析は時間をかけてじっくりしても、業界研究や企業研究となると、イマイチどう進めていいのかやりかたがわからなかったりして手薄になる人がいます。そこで今回は、私がよく就活生におすすめしている業界研究についてお話しします。

 
業界研究をはじめるにあたって、まずは“業種”と“職種”の違いをはっきりさせておきましょう。学校生活で体験してきた行事やアルバイト、家族も同じように、どんな小さな単位でも複数の人が力を合わせて価値を生み出す場合、みんなが同じことをするのではなく、分担・分業で作業をすることが多いでしょう。たとえば学校にある放送委員会、図書委員会であったり、飲食店のアルバイトでは、ホールやキッチンであったりと役割がわかれていますよね。

 
社会全体も分業をして成り立っています。企業は、社会の中で何らかの「社会での役割」を引き受けていますし、また企業の中ではさらに細かく「企業内での役割」を分担しています。企業が社会で引き受けている役割のことを「業種」、企業内で分けている役割のことを「職種」といいます。

 
この「業種」のひとつひとつが○○業界といわれるものです。製造業とか広告サービス業とか卸売業とか……。流通業をとってみると、社会の中で商品を運ぶ役割としての「業種」であり、その企業の中での役割として営業や事務などの「職種」があるのです。だから、業界研究をするにあたってはまずその業界が社会においてどんな役割を引き受けているのかを理解しましょう。その中で、自分はどんな役割に興味があり、また向いているのかを考えていくのです。

 
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 日本ではどんな業界に分かれているか

そもそも日本に業界はいくつあるのでしょうか? 総務省による日本標準産業分類では以下のように大きく20に分類されています。実際はもっと大まかにもわけられるし、もっと細かくもわけられますが、イメージしやすいのではないでしょうか。

 
1. 農業、林業
2. 漁業
3. 鉱業、採石業、砂利採取業
4. 建設業
5. 製造業
6. 電気・ガス・熱供給・水道業
7. 情報通信業
8. 運輸業、郵便業
9. 卸売業、小売業
10. 金融業、保険業
11. 不動産業、物品賃貸業
12. 学術研究、専門・技術サービス業
13. 宿泊業、飲食サービス業
14. 生活関連サービス業、娯楽業
15. 教育、学習支援業
16. 医療、福祉
17. 複合サービス事業
18. サービス業(他に分類されないもの)
19. 公務(他に分類されるものを除く)
20. 分類不能の産業

 
まずは書店の就活コーナーに毎年並ぶ、『業界地図』を読んでみたり、大手就職ナビの記事にある業界の特徴がわかりやすくまとめられていたりするページを眺めてみると自分が全く選択肢に入っていなかった業界にも視野が広がってきます。

 

 一番の目のつけどころは「未来」

業界研究をするときに注目したいのは、業界の今後の流れや未来予測です。たとえば10年後にこの業界はどうなっているかということを想像してみましょう。新卒入社のタイミングこそこの視点が大切だと思います。

 
なぜ、未来を考えていく視点が大切なのか。それはあなたが仕事で活躍できるタイミングは、すぐではなく、知識や経験を重ねた後のちょっと先の未来だからです。もし数年後、その業界で経験がつき仕事ができるようになってきたとして、市場そのものが小さくなっていく流れの中にあったらどうでしょうか? せっかく知識や経験を得ても、市場の縮小と共にあなたの活躍できるフィールドは小さくなっていってしまいますよね。

 
だからこそ、あなたが活躍できるようになったちょっと先の未来に向かって、その業界は成長しているのか? どうなっていくのか? という視点で考えることが大切なのです。もちろん実際に業界がどうなっていくのかを正確に当てるのは経済学者だって難しいでしょう。100%正解はだれにも予想できませんが、業界は社会全体の動きとつながっています。だから、社会全体でキーワードとなっていることにアンテナをはると自分でも大まかに考察できるようになってきます。たとえば、以下にここ数年でトレンドになっていたキーワードを一部紹介します。

 
人口減少、少子高齢化、消費税増税、クラウド化、TPP、女性の活躍、Eコマース、グローバル化、IoT、スマートシティ、人工知能、リノベーション、待機児童、環境負荷低減、O2O、食糧危機、マイナス金利

 
世界のトレンドと、日本国内のトレンドにも違いがあります。たとえば世界では今後人口が急増して、食糧危機に陥ると言われていますが、日本国内では人口減少による高齢化に悩まされています。このように、世界は? アジアは? 日本は? と視点の高さを変えて未来を想像していきましょう。

 

 社会全体の流れから業界の未来を考える方法

社会字全体の流れやトレンドと業界の成長との関係は……というと難しく考えすぎてしまうかもしれませんが、業界が成長する要因はシンプルにすると以下のように考えられます。

 
1. 買う数が増える(顧客数か買う回数の増加)
2. 買う値段があがる

 
つまり、社会的な流れの中で、その業界が提供している商品やサービスを買う数が増えるのか? または高い価値がつくようになるのか? という視点で考えます。風が吹けば桶屋が儲かるといった言葉もありますが、頭の体操の気分でいろいろ考えてみてください。無数に出てくるはずです。

 
例)
・国際的なスポーツの祭典の開催→海外からの渡航者増える→日本の観光情報へのアクセス増加
・待機児童増加→ベビーシッターの利用が増える
・Eコマース→ネットで商品を購入する機会が増える→小売店での購買回数が減る

 
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社会の流れに合わせて自分の見ている業界が成長路線にあるのかどうかを考えていくと、未来を考える視点が身についてきます。そうすれば新聞やテレビで報道されているニュースも、企業活動や仕事と結びつくようになってきておもしろくなってくるのではないでしょうか。

 

 業界の動向を調べる方法

業界の動向について具体的に調べる方法をいくつか紹介します。

 
■帝国データバンク 統計・レポート https://www.tdb.co.jp/report/index.html
「統計・レポート」のページにある、景気動向調査には各業界の直近の動向と見通しについてのレポートを読むことができます。

 
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また、業界動向では主要業界の昨年と今年の展望を晴れや雨、雷雨など天気で表していて簡単なコメントを記載しています。インターネット上で見られるものは最近の動向と短期的な未来の見通しをざっくりと要約した情報ですが、社会のどんな流れが業界に影響しているのかということが見えてきます。

 
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■SMBCコンサルティング 最新業界レポート https://www.smbc-consulting.co.jp/company/mcs/industry/
「最新業界レポート」のページには、シンクタンク各社が発表している各業界の調査が掲載されています。ミネラルウォーター市場、宝飾品(ジュエリー)市場など具体的に絞られた業界についての調査も掲載されているので、調べている業界があれば役に立つ情報を見つけられるでしょう。また「注目市場レポート」には、矢野経済研究所による市場規模と動向(過去4年間と将来展望)についての調査がまとまっています。4半期ごとなのでかなり最新の情報にアップデートされています。

 
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■インターネット検索
「○○業界 動向」「○○業界 見通し」などと、検索ワードを工夫するとインターネット上で発表されている分析情報を見つけやすくなります。書籍に比べてありとあらゆる情報発信者がいるので、上位に出てきた情報だからといってうのみにせず、情報の出所が信頼できるものを確認して読むようにしましょう。

 
■ニュースメディア・Googleアラート登録
ある程度志望業界が絞られてきていて、最新の情報を読みたい場合はニュースメディア(Web専門ニュースサイト、新聞社のWeb版)やGoogleアラートで特定のキーワードを登録しておくと便利です。関連するニュースについてまとめて読むことができます。
私は、仕事上「就活」や「採用」といったキーワードを登録していますよ。
Googleアラート https://support.google.com/alerts/?hl=ja

 
■その業界を代表する企業のIR資料
企業研究とも重なりますが、その業界のリーディングカンパニー(業界をけん引する代表的な企業)のWebサイトでも業界研究はできます。投資家向け情報のページで、決算短信のはじめのほうに市場の状況について解説されています。

 
また同じページに掲載されている中期経営計画や○○ビジョンといった将来の計画資料も役に立ちます。

 

 自分に合う業界を探すためのおすすめ書籍

業界研究は、興味のある業界を探すまたは興味のある業界について詳しく調べるという目的でがんばる人が多いですが、そもそも行きたい業界に自分が向いているか? という視点が役に立つこともあります。

 
自分が気になる業界に向いているかどうか? という観点での業界研究については、以下の2冊がおすすめです。

 
『2社で迷ったらぜひ、5社落ちたら絶対読むべき就活本』海老原嗣生著(プレジデント社)
『転職の赤本』鈴木康弘著(エンターブレイン)

 
主に広告・コンサルティング・商社・金融・IT・メーカー・小売などといった業界にどんなタイプが向いているかといったことが解説されています。どちらの本でもすべての業界は網羅できませんし、同じ業界であっても一社一社個性が違うので、あくまで大まかな傾向の理解になります。しかし、誰が顧客でどんな手段で価値を提供しているのか、どんな名目で報酬を得ているのかといったビジネスモデルから向いている人材の傾向を教えてくれるので、業界ごとの人物タイプを知ることができます。

 
理系研究職で、技術職を目指す場合はあまり進路にばらつきがないと思いますが、文系就職活動生はこれといった専門が決まっていない分、幅広く業界を検討する人が多いです。結果的に毎年、マスコミ・コンサルなどの人気業界や、出版・旅行など消費者向けの業界には応募者が増えますが、中には憧れやファンとしての気持ちで業界を目指して就職活動に苦戦する人が多いのもまた事実です。

 
企業も、お金をもらって社員を教育するのではなく、お金を払って社員を会社の一員として迎え入れてお客様に対応してもらうわけですから、採用したいのはその業界のファンではなく向いている(適性がある)人です。だからこそ、好きかどうかという視点で突っ走るだけではなく自分が目指している業界が、自分に合うのかどうかを考えることは大切です。先程紹介したような書籍などを読むことで、憧れではなくビジネスモデルから適性を冷静に考えていくのが役に立つ人は多いと思います。

 

 業界研究をどのように活用するのか?

以上のように紹介した方法で、業界研究をしていくと業界の今後のことが少しずつ想像できるようになってくるはずです。

 
そこで想像した未来のイメージを、自分はそこで会社をもっと成長させるためにどのように活躍していたいか? と具体的に考えるための参考にしてください。よく就職活動では「会社に入ったら将来何がしたいですか?」「10年後どうなっていたいですか?」といった質問があります。まさにこの質問に自信を持ってはっきりと答えるためには、業界研究が必要なのです。

 
業界研究をしていないと、自分よがりになってしまったり、逆にどんな業界でも同じような漠然とした話になってしまったりすることがよくあります。代表的なのは、頼られる人になりたい、後輩にも指導できるようになっていたいなど……。これでは他の人と差別化できませんし、本当にその企業で何かを成し遂げてくれそうな期待はもてません。

 
しかし、業界研究がきちんとできていれば、まさにその業界のトレンドや未来にかなった提案を考えられるようになります。その結果、企業からしても「本当にこの人が入って成長したら、将来会社を成長させてくれるエンジンになりそうだ」と思われるような提案ができるのではないでしょうか。自分が業界を選ぶためだけではなく、自分が選んだ企業により強くアピールするためにも、その企業が属している業界について詳しく調べてみてください。

 
せっかく社会人生活の第一歩をスタートさせる会社です。社会を支えていく一員として、自分が大きく成長した未来に活躍できる期待が持てるようなフィールドを見つけていきたいですね。

 
 
 
続いて、延べ3,000名の学生の面接や就職相談に応じてきたキャリアコンサルタント佐藤大さんから、企業研究のやり方を解説いただきます。

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